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市長のコラム

オシム・ジャパン  (平成19年12月5日)

 先月、「オシム監督、倒れる。」とのニュースが流れました。11月16日未明、サッカー日本代表を率いるオシム監督が、急性脳梗塞で倒れたというのです。容体の詳細については判りかねますが、相当危険な状態であったところは脱し、しばらくは小康状態が続いていたものの、驚異的ともいえる回復力で、最近では若干のコミュニケーションをとれるところまで回復された、とのことです。発病後半月が経過しますが、当地ゆかりの“ヤタガラス”をチームのシンボルとする日本代表の監督というご縁もあるだけに、一日も早い回復を祈らずにはいられません。

 さて、そのオシム氏が5月25日の日本経済新聞の中で、サッカーのゲームと監督との関係についてどのように考えているか、大変興味深い内容が掲載されていましたので少し紹介します。

 オシム氏はまず、チームと監督との結びつきについて、「もともと日本人には、監督とチームの関係を“主従”のようにとらえる傾向がある。そのことは「トルシエ・ジャパン」「ジーコ・ジャパン」と呼称することでも理解できる。」と言っています。その上でオシム氏は、「私は監督だが、チームは日本の代表であって、オシムの代表ではない。」。加えて「知恵を出し合い強くしようとしているのは、コーチやスタッフも一緒。なにより選手がいる。選手がいてこそ試合もできる。」と断言しています。こう言われると、ごく当たり前のことと言いたくなりますが、それではこのことが常日頃、実際にチームに浸透し、監督とチームの間で共有できているかについては、そんなに容易なものではないことを改めて気付かされます。

 さらにオシム氏は、試合そのものの「勝敗」について、「マスコミはよく監督の差で“勝った”、という書き方をする。しかしながら、それが理由で“勝った”のかは、本当のところは分からない。」とも言っています。試合の勝敗を分けるのには、想定外の出来事もあり、偶然が重なることもある。オシム氏の言葉を借りれば、「偶然うまくいく。そういうことだってある。 サッカーには言葉で説明できないことがたくさんある。」とした上で、例えば、試合途中で交代させた選手が、その直後にロングシュートを決めた。解説者はすかさず、「監督の采配ズバリ的中。」と賞賛する。しかし、監督としては、そのようなことをさせるつもりで交代させたのではなかったとしたら、赤面する以外にないと言うのです。この場合、勝てばいいのですが、負けた時には“偶然”も含め、どこまで監督の責任が及ぶのかは微妙なところで、このことを紙上のインタ ビュアーは、「監督とは、開演のベルが鳴った後では舞台上の俳優に手の出しようがない演出家に似ている。」と感想を述べています。

 一方で、「監督」といえば、こちらはプロ野球ですが、ヤクルトの古田敦也監督がシーズン途中の9月19日に、今季限りでの監督退任と現役引退を発表しました。「さみしい、というよりも、どっちかというと悔しい方かな…」。様々な大舞台でも、ある意味、憎らしいぐらい冷静な印象が深かった、あの古田監督が、会見場のテレビカメラをはばからず号泣したのは意外なことでした。そして搾り出すように、「プロに入って、最下位というのは一度もなかった。21年ぶりという球団史でも非情に悪い出来事。」と前置きをした上で、「監督が責任を取らず、人に責任を負わせるわけにはいかない。」とファンを失望させたことを詫びました。 結果が全ての世界で、個別の理由や原因よりも監督としての責任の取り方を示した場面でした。

 これはサッカーであっても野球であっても、つまるところ全てのスポーツを通じて言えることですが、「監督」とは、試合中の采配が注目され、その結果のみによって評価の大半を受けることが多いのですが、オシム氏の言う「試合は選手のもの。監督の役目は試合当日の更衣室に来る前に終わっている。」との発言も含め、改めて、その守備範囲の広さを考えさせられます。 その場その場で判断を求められ、最善と思う方策を決定していく監督業に対し、結果だけをとらえ、「あの時はどうだった。ああすればよかった。」と、あれこれ評論する諸氏に、このことの理解を求めるのは野暮なことなのかも知れませんが…。

 紙面の最後にインタビュアーは、オシム氏の心境を「勝利の方程式などは、逃げ水のようなもの。オシム氏には、“成功と失敗”、“功と罪”をしたり顔で結びつけ、万事が必然のように語られることが、不思議でならないのだろう。」と結んでいます。そうは言っても、人間というものは、結果に結びついた原因が明確でないと、なかなか納得し難いという一面を持っているのも事実ですが、一方では、人の力や監督の采配の及ばない部分があることも理解した上で観戦するという“心のゆとり”も必用なのではないかと思います。

 平成19年12月5日

shomei     

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最終更新日:2022330