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市長のコラム

世界農業遺産  (平成27年12月17日)

 「休日のないローマ」と冗談を言いながら、慌ただしい日程を終え、イタリア・ローマからの帰国の途にいます。スポーツ観戦等で、「弾丸ツアー」なる言葉は聞いてはいたものの、自らが体験するとは思いもよらないことでした。応援チームが勝利しての帰国は、疲れも感じないところでしょうが、今回の私はプレイヤーの一人としての充実感に満ちています。ご協力をいただきました全ての皆さんに感謝申し上げますとともに、忘れてはならないのは、決して恵まれたとは言えない条件の下で、連綿と営んできた私達の梅産業が世界レベルの認証を受けることができた背景には、先人の皆さんのご労苦があったということです。そして、改めてそのご苦労に心から敬意を表したいと思います。

 認定審査当日、国連食糧農業機関(FAO)において、日本からは岐阜県、和歌山県、宮崎県の3件と、バングラデシュ人民共和国、インドネシア共和国の2件を加えた計5件が、最終のプレゼンテーションに臨みました。もちろん、それらは全て英語によるもので、所々聞こえてくる単語と、途切れとぎれの同時通訳を頼りに、緊張の一時を過ごしました。いつものことながら、今回もまた、英会話の不勉強を悔いたことは言うまでもありません。それでも、我が和歌山県の「みなべ・田辺の梅システム」は、その内容においても、仁坂知事のスピーチも、地元ひいきを差し引いても充分な合格点にあると感じたのは私だけではなかったと思います。その後の日程としては、約2時間の昼食休憩の後、可否の決定に引き続き認定証の授与が行われるというもので、関係者による昼食は終始和やかなムードとなりました。

 ところが、「事態が急変」とはこの様なことをいうのでしょうか。時間にゆとりを持って会場に向かった我々が耳にしたのは、「審査がことのほか難航している」というものでした。断片的に入ってくる情報によると、20名近い各国代表の審査委員は昼食も返上して、白熱の議論となっているとのことです。とうとう予定の時刻を過ぎても、結論には至りません。「大丈夫、和歌山がダメならその他は…」などと、こういう時は得てしてマイナス思考になりがちであり、気をもんでいるそんな私たちのところに飛び込んできたのは、「どうも今回の認定は4件になりそうだ」というものでした。3県合同の控室は、にわかに緊張した空気に包まれました。何故こうした時は、「時計が止まったのかと思う程、長く感じるのだろう?」「そういえば、先ほどのプレゼンテーテーションの時、質問の内容はよくわからないながら、難しそうな顔をした委員がいたような気がする」などと思いを巡らせていると、ようやく係の方が入室を促してくれました。

 いよいよ発表です。会場は緊張に包まれています。ここでまた長いスピーチです。それこそ神経を集中して、「ワ~カ~ヤマ」「ニ~サカ」「ミ~ナベ、タ~ナベ」のいずれかの言葉を待ちます。結局、スピーチは発表ではなく前段の説明のようでした。この時のもどかしさをどのように文字に書き表せばいいのか。うまく文字にできない「もどかしさ」をも感じます。

 しばらく経って、さあ今度こそ発表です。マリア・ヘレナ・セメドFAO事務局次長のスピーチが始まりました。しかしながら、これまた早口なのか聞き手が悪いのか、ボソボソっという感じです。そうこうしているうちに、どうやら岐阜県に続き和歌山県、宮崎県が呼ばれた様子です。そういえば、発表前にドラムが鳴るのでもなければ、司会者がことのほか誇張するのでもなく、淡々とした事務的な発表の中で、「やったー!」といったタイミングを完全に失ってしまいながら、それでも間違いなく「認定」の二文字をいただいた喜びをようやく感じることができたのです。仁坂知事がマリア・ヘレナ・セメド事務局次長から認定証を受け取ります。満面の笑顔で撮影に応じる様子に目をやりながら、やはり「来てよかった」「この瞬間に立ち会うことができてよかった」そしてなにより、世界農業遺産の「認定」を受けることができて、本当によかったと思わずにはいられませんでした。

 そこで、今回の世界農業遺産「認定」の意義について書き記します。それにはいくつかのことが考えられますが、まず一つには、私達の先人が400年以上にわたって営んできた梅を中心とした産業が、FAOの言う「持続可能な農業」として、「生物多様性を保全するシステム」として、高く評価されたことではないでしょうか。「評価」の前に「高く」と形容したのには理由があって、後に知ることとなりましたが、実は20名近い専門委員からは、全会一致で「みなべ・田辺の梅システム」が支持されたということです。

 この地で梅を中心とした農林業を営んできた先人の皆さんからすれば、なにも「世界農業遺産」の登録を目指してきたものではありません。しかし、大切なのはそうした「暮らし」、「営み」そのものが、単に生産性の向上のみならず、結果として持続可能な、自然の摂理にかなった「生産システム」をつくり上げてきたということです。正に「腑に落ちる」とはこういうことでしょう。「身体に良い」と言われる梅は、その栽培方法も「地球」に大きな負荷を掛けず、「他の生物」にとっても優しかったことが証明されたのです。

 このことは、現地調査に当地を訪れた、阿部健一先生の言葉にも表れています。それは、現地調査を終えてささやかな夕食を兼ねた懇親会の場でした。「世界農業遺産は、よくユネスコの世界遺産との違いを問われる。ユネスコの世界遺産は、主として対象文化財の保存を目的とする。一方、世界農業遺産は変えることを否定しない。むしろ、より良い方向に変えていくべきもの。」とした上で、「ただし、変えてはいけないものは、変えてはいけない。」「当地の梅システムで、変えてはいけないものは何だろうと考えた。」それは、「決して恵まれたとは言えない土地を、手塩にかけて耕してきた『心意気』ではないだろうか。」といった内容でした。私はこの言葉に感動を覚えたことを、今でも鮮明に記憶しています。こうしたことが、現地調査という限られた時間にもかかわらず、調査員に伝わったことを本当にうれしく思います。

 今回「みなべ・田辺の梅システム」が「世界農業遺産」登録されたことは、その他にも様々な影響を与えるものと考えますが、まずは地域の「誇り」を再認識することこそが、なによりも登録の「意義」ではないかと考えています。

  平成27年12月17日

shomei    

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最終更新日:2022330